リテラシーラボラトリ

リテラシーを考える

やたら将来に不安だった自分に早く読ませたかった一冊の本

 「このままで俺はいいのか?」常に自分を追い詰めていた、この問い。「今のままで自分は10年後どうなるんだ?」ついこの間まで、そんな悩みで頭は一杯でした。

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 誰しもが将来は不安です。けれど、僕は目の前のことに没頭できないほど過剰なまでに心配しすぎていた。そんな僕がもっと早くに読んでおくべきだった一冊の本。それが榎本博明氏の『「やりたい仕事」病』です。


キャリアデザイン教育の罠

 「キャリアデザイン」この言葉は僕ら20代そこらの人は、学生生活、特に大学時代に口酸っぱく、世間から言われ続けてきたものです。(その名の学部をつくった大学もありましたね)自分のキャリアをデザインする。聞こえのいいこの言葉が、実は僕らを惑わせていることをこの本では言及しています。キャリアデザイン教育の罠です

 キャリアデザイン教育において、やたら勧められることは、将来をイメージさせることです。「10年後のあなたは何をしていますか?」「20年後はあなたは何を職にしていたいですか?」などなど。そして、極めつけは「夢」。「あなたの夢は何ですか?」これを問わない、教育者はむしろ少数なのではないでしょうか?

 別にこれ自体が悪いこと、ということではありません。夢をもつことは大事だし、将来を考えることも賢いことでしょう。

 しかし、社会に出たばかり、あるいはまだ社会に出てもいない人が10年後の自分の姿を果たして予測できるのか、と榎本氏は言います。

やりたいのか分からないことを夢にしている

 「あなたがやりたいことは何ですか?」と聞かれても、その「やりたいこと」は自分の見たり聞いたりした、経験からでしか語れません。しかもただ見聞しただけでは、それは空想に過ぎず、現実的とは言えません。社会的経験が足りない僕みたいな若造には、「やりたいこと」があるようで、ありません。聞かれたら答えるようプログラムされていますが、「それ、本当にやりたいことなの?」と問い詰められたら、「そうじゃないかも…」となってしまう気がします。

 もちろんステキな経験をしてきて、「自分はこれがしたかった!」と言って、嬉々として活動している人もいるでしょう。そういう人はいいのです。しかし、「別にしたくもないのだけれど、言わざるを得ないから夢を語っている」みたいな人は危険です。キャリアデザイン教育の被害者といってもよいかもしれません。

 経験不足の人間が、成功や失敗など様々な経験を重ねていくと、人は変わります。成長します。するとその人の考えは、経験前後で大きく変わっているのです。特に若い僕らは経験でガラリと変わる。当然「やりたいこと」も変わってくるわけです。なのに今まで言ってきたことだからと「やりたいこと」に固執し続けると、理想と現実の自分のギャップに必ず苦しみます。そして、自らに問うのです。


「これは本当に自分がやりたいことなのだろうか?」と。

自分も変わるし、社会も変わる

 この変わるということは、何も自分のことだけではありません。社会も急速に変わっています。ほんの10年前には想像も出来なかったような職種が世の中にはたくさん生まれています。特に僕がいるネット業界なんて、その象徴みたいなもので、1年で世界が変わります。新しいプログラミング言語も生まれれば、新しいデザインも登場する。

 そんな世界にいる私達が考えることは、限界があることを知らなければなりません。「いや、俺が考えることは絶対だ」と思う自信も大事でしょうが、それは傲慢さであり、鈍感さでもあります。危険なのです。

 そんな中で僕らが考える「やりたいこと」というのは実に現実味がないことになってしまう。「だから夢なのだ」といってしまえば、そうなのですが、「やりたいこと」が「やれないこと」だったと知ったら、そりゃもうショックでしょう。それでも頑張るんだというのは美しいですが、大分辛いです。

では結局どうすればよいのか

 では、将来なんて考えるなということが答えなのかというと、そうではありません。著者が問題にしているのは、見れない将来に不安を感じ、今目の前のことに没頭できないことの危険を訴えているのです。それは大きな機会ロスだと。

 仕事に没頭できず、「これは自分のやりたい仕事じゃありません」と、来る仕事をはねつける人に力は身につきません。力がなければ経験もできません。経験がなければ、「やりたいこと」は広がっていかない。井の中の蛙の人間になってしまいます。

 経験を重ね、自分を成長させたい大事な20代に、そんなことになるくらいだったら、なりふり構わずどんな仕事でもどんな作業でも真剣にやってみろ、というのが著者の意見です。いかなる仕事であろうとも、学べないものはありません。やって初めて、「あ、これは自分に向いてるな」とか「自分の性格的に難しいな」など適正が見えてくるのです。やらない前だったら、絶対に見えてくることはありません。

 こういう経験値は仕事への没頭度によって変わってきます。あれこれ考えて仕事に集中できないのは、いってしまえば、はぐれメタルが目の前にいるのに、それを見ずに、ラスボスのゾーマのことを考えているようなものです。それは惜しいですよね。

さいごに

 安直な結論のように思われるかもしれません。が、あれこれ悩みがちな僕にとって、簡潔で明確な回答をもらえて、すごくスッキリしたのです。目の前のことに集中して、経験を得ながら、近い将来を見据えていくこと。そして「やりたいこと」は変わってもよいのだと。それを聞いて大分安心したもんです。

 もちろんもっと他にもいろんなことが言われていますので、気になる方はぜひ一読ください。

 そしてもし、あなたの周りに将来について真面目に悩みすぎている人がいれば、この本を紹介してあげてください。きっと一本の光になることでしょう。

「やりたい仕事」病 (日経プレミアシリーズ)

「やりたい仕事」病 (日経プレミアシリーズ)

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